洪水流量観測システム
可搬型ADCPによる洪水流量観測システム
ADCPで河川を横断観測して流量を算出する手法は、断面の流速分布を短時間で詳細に計測可能なこと、および計測断面形状を同時に取得できることなどから、最も精度良い流量観測手法として幅広く活用されています。特に洪水時に同等精度で計測できる流量観測手法は他にはなく、国土交通省が定める河川砂防技術基準(調査編)などでも信頼性の高い手法として紹介されています。
洪水観測においては、橋上操作艇とよばれる小型ボートにADCPを搭載し、橋上を観測者が徒渉横断しながら曳航することで断面の流速分布を計測させます。(この観測手法には作業員が通行できる橋梁が必要になります。)
本手法では、単に流量のみならず、横断測量、河床の流砂速度、水面波形、反射強度による濁り、など様々な水理データを同時に取得することが可能です。
毎年実施されている、信濃川の合同観測会の様子。多くのADCPが性能検証およびトレーニングのために観測に参加しています。
河川砂防技術基準に準拠した機器構成
河川砂防技術基準(調査編)において、橋上操作艇搭載ADCP法の機器構成が紹介されています。標準的な構成としては、流速計にADCP、RTK-GPSコンパス、ハイスピード型の橋上操作艇、遠隔操作装置、などとなっています。また、流速が3.5m/sを越える場合は人力では危険が伴うため、移動式観測台車の使用を推奨いたします。データ処理は、専用のデータ処理ソフト(Visual ADCP tools)をして流量算出、コンター図・ベクトル図の出力を行います。
ADCPの種類
洪水観測に利用できるADCPは、リオグランデADCP、リバーレイADCP、リバープロADCPの三種類になります。リバープロADCP、リバーレイADCPは近年リリースされた河川流量観測専用機種で、優れた機能とパフォーマンスを発揮できます。
モデル名 | 特徴 | |
---|---|---|
リバーレイADCP | フラットな600kHzフェーズドアレーに測深用の鉛直ビームを付加させた高濁度に強いタイプ。マニュアルモードとオートモードを選択できます。 |
オート設定(測定モード、層厚、層数を自動切替) 層厚設定:0.4m~60m 周波数:600kHz ビーム数と角度:4ビーム / 30°(測流)+1本 / 90°(測深) ・高濁度対応モデル ・センサー近傍の流れを乱さないフラットなセンサー面 ・複雑な地形でもボトムを捉える測深専用ビーム |
リバープロADCP | 600kHzの鉛直ビームで測深と流速プロファイル計測が可能。マニュアルモードとオートモードを選択可能で、内蔵GPSにより航走位置を記録することが出来ます。 |
オート設定 / マニュアル設定 ※オプション(切替可能) 層厚設定:0.12m~25m 周波数:1200kHz(斜ビーム) / 600kHz(鉛直ビーム) ビーム数と角度:4ビーム / 20°、鉛直ビーム:1ビーム / 90° ・GPS内蔵、ブルーツース通信 ・複雑な地形でもボトムを捉える測深専用ビーム ・最も浅い場所で計測出来るタイプ |
橋上操作艇の種類
橋上操作艇は、対応流速に応じて3種類のラインナップをご用意しております。洪水時に利用できるのは、高速流対応型のハイスピードリバーボートとなります。リバーレイボートは小型軽量で低水流観には最適です。
モデル名 | 特徴 | |
---|---|---|
リバーレイボート RiverRay boat |
船型 | トリマラン型 |
対応流速 | ~2.5m/s | |
寸法 | L120cm×W80cm×H18cm | |
重量 | 10kg | |
対応機種 | リバーレイADCP、リバープロADCP | |
備考 | ・サイドハルを折りたたんで収納可能 | |
ハイスピードリバーボート High Speed Riverboat |
船型 | トリマラン型 |
対応流速 | ~6.0m/s | |
寸法 | L152cm×W124cm×H18cm | |
重量 | 17kg | |
対応機種 | ワークホースADCP、リバーレイADCP、リバープロADCP |
遠隔操作、ラジコンボート等、様々なアプリケーションをご用意しております。
こちらも是非ご覧ください。
移動式観測台車での観測
【特長】
- 流速6m/s以上でも耐えうる堅牢な構造
- 15分で組立て可能で可搬性に優れた設計
- アウトリガー方式
- ブーム角度や長さの調整が可能
- カムクリップで操作性は良好
- クリートは3箇所に配置
- 橋上の街灯も簡単にかわすことが可能
- 移動性に優れた大型タイヤ
- 電動キャプスタン搭載
無線オペレーション
オペレーターは車中やテントなど雨のかからない場所からデータを取得することができます。また、取得したデータは、専用ソフトウェアWinRiverⅡ上でリアルタイムに表示され、流量が即時に計算されます。
RemoADCPにより遠隔でリアルタイムデータ取得が可能です。
データ処理
現場ではTRDI標準ソフトのWinRiverⅡを使用してデータ取得および流量値の速報値を確認しながら観測することができます。
また後処理では、ADCPデータ処理ソフトVisual ADCP tools(VAt)を使用して、細かなノイズ処理、航跡直線化と距離平均、水面と河床付近の外挿補完、などを行い、正確な流量を算出することが可能です。
さまざまな機能をクリック操作だけで簡単に実行することができ、また、大量データもバッチ処理で短時間に処理できるため、報告書業務には最適なソフトウェアです。
[Visual ADCP toolsデータ処理機能(一部)]
航跡直線化:蛇行した航跡を測線に沿って補正します。
距離平均:観測横断距離を平均し、データ密度を一定にします。
ノイズデータの除去:%Good、流速ノイズ、流向ノイズの閾値を設定し除去します。また負値流速の除去も可能です。
リファレンスの設定:流速計算と航跡のリファレンス(BTもしくはGPS)を別々に選択することができます。
ボトム出力方法の選択:4ビーム平均、2ビーム平均、5Beam、外部測深器から選択することができます。
不感帯(未計測エリア)の補正:河川砂防技術基準に従った左右岸不感帯、水面・河床付近の不感帯の流量補正ができます。
実測範囲の内挿補完:ADCP実測範囲のデータ欠測部を内挿補完することができます。
[データ処理例]
航跡が蛇行した場合の処理:
航跡が蛇行した場合は、航走距離が川幅を越えてしまうことがあります。このような航跡直線化機能で航走距離を実際の横断にあわせて修正します。
未計測エリアの補完:
ADCP観測によって生じる水面や河床の不感帯について、河川砂防技術基準に従った補完方法で補正することができます。補正することでより正確な流量算出を行うことができます。
補完方法 | |
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水面 | Constant、3-Pt slope、Log-Law、2次曲線 |
河床 | Constant、Linear、Log-Law、2次曲線、2次曲線_河床ゼロ、2次曲線_移動床 |
河床が移動する場合の処理:
洪水時など流速が速い場合は、河床の砂が流されて移動します(流砂あるいは移動床と呼ばれます)。河床が移動している状況では、ボトムトラック機能で計測すると、本来と大きく異なる航跡を描いてしまい、流量も異なった値が算出されてしまいます。この様な場合は、RTK-GNSSのGGAデータをリファレンスとすることで、正しい航跡描画と流量計算をすることができます。
リファレンスは、航跡描画と流量算出で別々に選択することが可能です。
流砂速度の計測:
流砂(移動床)発生時に生じるボトムトラックとRTK-GNSSの航跡の差異を利用して、流砂速度を算出することができます。流砂速度出力機能を使用すると、簡単に流砂速度の横断分布を出力することができます。
システム構成
ADCP | RiverPro/RiverRay |
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橋上操作艇 | High Speed River Boat |
測位・コンパス | RTK-GNSS-コンパス |
遠隔通信装置 | RemoADCP3 |
移動式観測台車 | 移動式観測台車 |
データ処理ソフトウェア | Visual ADCP tools |